飲食店の店長は「1日10時間以上働く」「店長だから残業代は支払われない」などのイメージを持たれがちです。
しかし、店長にも労働基準法は適用されます。
労働時間や残業代には、役職に関わらず、明確なルールが設けられているためです。
肩書だけを理由に残業代が支払われないのは、適切とは限りません。
この記事では、厚生労働省の調査をもとに、飲食店店長の労働時間の実態を解説します。
飲食店の店長の労働時間の実態は?厚労省調査でわかること
飲食店の店長は、所定労働時間だけを見ると、一般企業と大きな違いはありません。
しかし実際には残業や突発的な対応が重なり、長時間労働になりやすい実態が見られます。
ここでは、厚生労働省の調査をもとに、店長の労働時間の現状を解説します。
店長の週所定労働時間は「35〜40時間」が約6割
厚生労働省が実施した「外食産業における労働時間と働き方に関する調査」では、正社員店長の週所定労働時間は「35時間超40時間以下」が61.1%と、最も多い結果でした。
一方「40時間を超える」と定めている企業も24.0%あり、業界全体で見ると、所定労働時間には一定のばらつきがあります。
さらに実際の勤務では、時間外労働が月45時間を超える企業が14.4%、80時間を超える企業も1.8%存在しています。
つまり、就業規則上は一般的な勤務時間でも、人手不足や繁忙期の影響で、長時間労働になっているケースは珍しくありません。
店長の負荷が高い背景は「人手不足」と「役割の多さ」
飲食店の店長は幅広い業務を担当します。
ホールやキッチンのサポート、売上管理、発注、シフト作成、アルバイトの採用・教育、クレーム対応、本部への報告など、多くの業務を同時進行しなければなりません。
飲食業は、慢性的な人手不足状態が続いていることもわかっています。
スタッフ不足だと、店長自身が現場に入ることになります。
休憩や休日を削って対応することが増えれば、マネジメント業務は営業時間外になりがちです。
飲食店の構造自体、労働時間が長くなりやすくなっています。
飲食店の労働時間が長くなりやすい3つの理由
飲食店の長時間労働は、店長個人の働き方だけが原因とは断定できず、業界特有の業務内容や、人員体制の問題が見られます。
ここでは、代表的な3つの理由を紹介します。
開店前・閉店後の付随作業が膨大にある
飲食店では営業時間以外にも、多くの業務をこなさなければなりません。
開店前に仕込みや清掃のほか、備品の準備、閉店後にはレジ締めや在庫確認、さらには翌日の仕込みや売上集計などが続きます。
加えて発注や勤怠確認、日報作成などの管理業務も店長は担当しています。
すべて対応していると、営業時間だけでは業務を終えられないことも珍しくありません。
残業が常態化しやすいのは、飲食店特有の課題です。
正社員が少なく店長に業務が集中する
多くの飲食店で、少数の正社員と多数のアルバイト・パートという人員構成で、店舗が運営されています。
アルバイトが急に欠勤した場合や繁忙時間帯に人手が足りない場合、店長が現場に入って対応することが一般的です。
また、責任の大きいクレーム対応や金銭管理のほか教育業務など、店長しか担当できない業務は多数あります。
そのため本来は管理業務に充てる時間が接客や調理に置き換わり、結果として、勤務時間が長くなる傾向があります。
客の動向が読みにくく突発的な残業が発生しやすい
飲食店の来店客数は、天候や近隣イベントの影響によって、変動することがあります。
閉店間際に団体客が来店したり、急な予約が入ったりすると、予定していた退勤時間を過ぎて対応しなければいけません。
さらに深夜営業や24時間営業の店舗は、夜間帯の勤務や引き継ぎ対応が発生し、拘束時間が長くなりやすい傾向もあります。
このような、予測しにくい業務が積み重なることが、飲食店の店長の長時間労働につながっています。
飲食店に適用される労働時間の法律ルールを整理する
飲食店で働く場合でも、法律上のルールに則った労働時間はあります。
「飲食店だから仕方ない」「店長だから例外」という説明を受けても、すべてが認められるわけではありません。
まずは基本となる制度を理解したうえで、自分の働き方と照らし合わせてみましょう。
法定労働時間は「1日8時間・週40時間」が原則
労働基準法第32条では、法定労働時間は原則として1日8時間、週40時間と定められています。
この時間を超えた労働の場合、労働基準法第36条に基づく「36協定」を、会社と労働者の代表者との間で締結しなければなりません。
あわせて、労働基準監督署への届出も必要です。
36協定がないまま時間外労働や休日労働を命じるのは違法です。
違反した場合、会社が罰則の対象になる可能性があります。
日々の業務で残業が当然になっている職場でも、まずは36協定が適切に締結されているか確認することが大切です。
常時10人未満の飲食店は「週44時間」の特例がある
飲食店には労働時間に関する特例があります。
労働基準法第40条および労働基準法施行規則第25条の2により、常時10人未満の労働者を使用する飲食店は、週の法定労働時間を44時間まで延長できる特例が認められています。
ただしこの特例は週の上限に関するもので、1日の法定労働時間が、8時間から変わるわけではありません。
また、常時10人未満の人数は正社員だけではなく、アルバイトやパートも含めて判断されます。
店舗規模によって適用の有無が変わるため「飲食店だから週44時間で問題ない」と一律には考えられません。
変形労働時間制で繁閑差に対応できる
飲食店は曜日や季節によって忙しさが変わります。
そのため多くの店舗で、1か月単位や1年単位の変形労働時間制を導入しています。
変形労働時間制では、繁忙日になると長く働いて、閑散日は短く勤務する形です。
一定期間の平均労働時間を、法定労働時間以内に収められます。
ただしこの制度を導入するには、就業規則への記載や労使協定の締結など、法律で定められた手続きが必要です。
手続きを行わず「今日は忙しいから長時間勤務」という運用を続けているだけだと、変形労働時間制として認められません。
休憩時間・休日の最低基準
労働基準法では、休憩時間についても明確な基準があります。
労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は、1時間以上の休憩を与えなければなりません。
また、休日は原則毎週1日以上、または4週間を通じて、4日以上与えなければならないと決められています。
注意したいのは「休憩時間」とされていても、電話対応や来客対応などがあれば自由に過ごせない場合です。
使用者の指揮命令下にある時間は、労働時間と判断される可能性があります。
実際には仕事をしているにもかかわらず、休憩扱いになっている場合、一度勤務実態を確認してみましょう。
「店長だから残業代が出ない」は本当か?管理監督者の正しい理解
「店長だから残業代は支給されない」と説明されるケースがあります。
しかし店長という肩書だけで、残業代の対象外になることはありません。
重要なのは、法律上の「管理監督者」に該当するかどうかです。
管理監督者に該当するための3つの条件
労働基準法第41条では、管理監督者に該当する場合、労働時間や休日などの規定が適用除外となります。
ただし、管理監督者と認められるには、以下の3つの要素を総合的に満たさなければなりません。
- 経営者と一体的な立場で重要な職務を担っていること
- 出退勤時間を自ら判断できるなど、勤務時間の裁量が大きいこと
- 地位に見合う給与や待遇を受けていること
タイムカードで厳しく勤怠管理され、経営判断にも関われず、役職手当もわずかな場合、管理監督者に該当しない可能性があります。
「名ばかり管理職」と判断された日本マクドナルド事件
管理監督者の判断基準として広く知られているのが、2008年の日本マクドナルド事件です。
この裁判では、店長という肩書があっても、採用や人事に十分な権限がなく、勤務時間の自由も限定されていたことなどから、管理監督者には当たらないと判断されました。
その結果、会社には未払い残業代、約755万円の支払いが命じられています。
この判決は「名ばかり管理職」という言葉が広く知られるきっかけとなりました。
現在でも、飲食業界や小売業界で重要な判断基準として扱われています。
管理監督者でも深夜割増賃金・有給休暇は発生する
仮に管理監督者に該当する場合でも、すべての権利がなくなるわけではありません。
午後10時から午前5時までの深夜労働については、25%以上の深夜割増賃金が必要です。
また、年次有給休暇も通常どおり取得できます。
「管理職だから深夜手当も有給もない」という説明を受けた場合、法律上の取扱いと異なる可能性があります。
会社の就業規則や給与明細を確認し、不明点があれば、労務担当者へ確認しましょう。
「これって違法?」飲食店でよくある労働時間のグレーゾーン
飲食店で長年の慣習として続いている働き方でも、法律に照らし合わせると、問題となるケースがあります。
ここでは特に相談が多い事例を紹介します。
36協定なしで残業・休日出勤をさせている
残業や休日出勤を命じるには、36協定の締結と届出が必要です。
協定がないまま時間外労働を命じている場合、労働基準法違反となる可能性があります。
勤務先で36協定が締結されているかわからない場合、就業規則や社内掲示、本部の労務担当者などに確認が必要です。
固定残業代を超えた分が支払われていない
固定残業代制度を導入している会社でも、設定された時間を超えて働いた場合、その超過分の残業代を支払う義務があります。
例えば「固定残業30時間分」が給与に含まれていても、実際に45時間残業した場合、15時間分は追加で支払わなければなりません。
また、15分単位や30分単位で労働時間を切り捨てる運用も、原則として認められていません。
毎月の給与明細と実際の勤務時間を比較し、不一致がないか確認する習慣を持つことが大切です。
開店前後の作業が労働時間にカウントされていない
開店前の仕込みや閉店後の清掃、売上集計などを勤務時間として扱っていない店舗もあります。
しかし、会社の指示でおこなう作業は、基本的に労働時間です。
タイムカードを打刻した後、片付けを続けたり、始業前に準備作業を求められたりする場合も、勤務時間として扱われる可能性があります。
「昔からそうだから」という理由だけで受け入れるのではなく、自分の勤務実態を法律に照らし合わせて、適切かどうか一度確認してみることが大切です。
飲食店店長の長時間労働・サービス残業に悩んだ際の対処法
現在の労働時間に疑問を感じているなら、感情的に退職を決断する前に、勤務実態を整理し、順を追って対応することが大切です。
ここでは、現実的な対処方法を紹介します。
勤務実態の記録を残し、まず社内で相談する
長時間労働やサービス残業が続いていると感じたら、まずは客観的な記録を残します。
タイムカードや勤怠システムの記録以外にも、シフト表、業務日報、メールやチャットのやり取りなどは実際の勤務時間を示す資料になります。
始業・終業時刻を日頃からメモしておくのも有効です。
証拠を整理したうえで、直属の上司や本部の労務担当者へ相談しましょう。
人員配置やシフトの見直し、業務分担の変更によって改善できるケースもあります。
一方で「店長だから仕方ない」の一点張りで改善する意思が見られないようなら、次の対応について検討が必要です。
労働基準監督署への相談と転職という選択肢
社内で改善が期待できないようなら、勤務先を管轄する労働基準監督署へ相談しましょう。
労働基準監督署では、労働時間や残業代に関する相談を無料で受け付けています。
勤務実態がわかる資料を持参すれば、状況に応じたアドバイスを受けられます。
未払い残業代には請求できる期間があるため、「おかしい」と感じた時点で、早めに相談することが重要です。
また、慢性的な長時間労働が続いて心身への負担が大きくなっている状況で、無理に働き続けるのは避けたいところです。
近年では労務管理も改善し、休日数や残業時間を明確に公開している飲食企業も増えてきました。
現在の職場だけが選択肢ではありません。
その点を知っておくと、気持ちにも余裕が生まれます。
飲食店店長の労働時間でよくある質問
飲食店店長の労働時間について理解が深まると「実際の勤務時間はどれくらいか」「残業代は支払われるか」などの疑問が出る方もいるはずです。
ここでは、店長の労働時間のよくある質問に回答します。
飲食店の店長の労働時間は、一般的に何時間くらいですか?
厚生労働省の調査で、週の所定労働時間として35〜40時間が最も多いことがわかりました。
一方、実際には残業が発生し、月45時間を超える時間外労働がある企業も見られます。
人手不足や繁忙期の影響を受けやすく、実際の拘束時間は長くなりがちです。
店長に残業代は支払われますか?
店長という役職だけでは、残業代の支払い対象外にはなりません。
労働基準法上の管理監督者に該当しない場合、会社は残業代を支払う義務があります。
飲食店の法定労働時間は何時間ですか?
原則1日8時間、週40時間です。
ただし、常時10人未満の労働者を使用する飲食店では、一定の条件を満たす場合、週44時間まで認められる特例があります。
管理監督者とはどのような人ですか?
経営者と一体的な立場で重要な権限を持ち、勤務時間の裁量があって地位に見合った待遇を受けている人を指します。
店長という肩書だけで、管理監督者になれるわけではありません。
飲食店店長の労働時間を正しく理解しよう
飲食店の店長は、人手不足や幅広い業務を担う立場のため、長時間労働になりやすい職種です。
しかし「飲食業界だから」「店長だから」という理由だけで、法律上のルールが適用されなくなることはありません。
法定労働時間や36協定、管理監督者の要件、残業代の考え方を正しく理解することで、自分の働き方が適切かどうかを判断しやすくなります。
もし現在の勤務先で改善が見込めない場合、労働基準監督署への相談や転職も、選択肢の一つです。
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